ところで、あのぉ~~、ちょっといいですか?

「ヴァニス」

「なんだ?」

「手」

「手?」

「だから、この手!」

 この、胸鷲掴み状態を何とかして欲しいんだけど!

 明るい室内でギャラリーが一杯な中、この状況は恥ずかしすぎる!

「あぁ……」

 ヴァニスは頷き、あたしの寝間着をきちんと整えてくれた後で、ゆっくりとベッドから降りた。

 ……ホッ。良かった。内心まだ不安だったのよ。

 侍女達を追い返した後で、第二ラウンド突入って事になったら、どうしようと思った。

「羞恥のあまり、思わず呼び鈴を鳴らしてしまったか」

「え?」

「なんと初々しい反応だ」

「え゛?」

「余も、乙女に対して性急過ぎた。許せ」

 ……。

 勘違いと、思い込みと、すれ違いの状況は、いまだ継続中のよう……。

「次回はしっかりと、相応の手順を踏もう」

 次回があるの!?
 しかも、相応の手順ってなに!?

「余は執務に戻らねばならぬ。皆、雫を頼むぞ」

「承知いたしました」

「雫、今宵は非常に有意義な時間を、共に過ごせた事を余は嬉しく思う」

「は、はぁ」

「また明日会おう。時間を作る」

 そう言ってヴァニスは身を翻して去っていった。

 相変わらずの、堂々とした風格を漂わせながら。

 ……あ、でもエプロン付けたままだわ。いいのかしらあれ。