次の瞬間、室内は異様な沈黙に包まれる。

 廊下の明かりのおかげで光度が増した中、あたしとヴァニス、そして侍女達全員の視線が、バッチリ絡み合った。

 あたしは、手に掴んでいる物の正体を確認する。

 ……あ、これって、呼び鈴のヒモ……。

 なるほど、これを引っ張ったから侍女達が駆けつけて来たんだ。

 あたしの容態に変化が起きたと思って、すわ一大事とばかりに、大挙して押し寄せてきてくれたのね。

 当の侍女達は、目を丸くして固まってしまっている。

 目の前の状況を把握しきれてないんだろう。

 執務中のはずの国王陛下が、ベッドの上で、肌もあらわな女性の胸を鷲掴みの真っ最中。

 しかもエプロン着用ってとこが、わけのわからない意外性満載。

 客人が一大事になると思って駆けつけてきたら、自分達が一大事になってしまった。

 そんな表情をありありと見せながら、侍女達は石像のように立ち尽くしていた。

 いっそこのまま、ほんとに石になってしまいたい心境だろう。

 そんな非常事態の中で、一番最初に沈黙を破ったのはヴァニスだった。

「お前達、いったいどうしたというのだ?」

 いや、それはこっちのセリフだろう!?

 ……と、よほど突っ込みたいところだろうが、侍女達は冷静に畏まって返答する。

「呼び鈴が鳴らされましたので」

「あぁ、ふむ。雫の身を案じて駆けつけたか」

「さようでございます」

「それは良い心がけだ」

「お褒めに預かり光栄でございます」

「これからも雫の世話を、くれぐれも頼むぞ」

「粉骨砕身、努めます」

 どこか、この場にそぐわない主従の会話がのんびり進んでいく。