ジンの笑顔。怒った顔。心配そうな顔。

 明るい笑い声。からかう声。優しい声。

 そして、傷付き打ちのめされてなお、あたしを求める銀色の風。

『オレの雫に触るな!』

 ジンの言葉が甦り、目が覚めたかのように、あたしの全身に力と気力が甦る。

 しっかりしなさいあたし! いいようにされてちゃだめよ!

 このまま最後までいっちゃったら、あたしもう二度とジンの顔が見れないわ! そんなのは嫌よ!

 ヴァニスの体の下で、必死にジタバタと蠢いた。

 いきなり暴れだしたあたしの動きを、軽く押さえつけながらヴァニスが宥める。

「落ち着け雫。余に全てまかせろ。初めてでも怖がる事はないのだ」

 初めてじゃないわよ! それが理由で抵抗してるんでもないし!

 ただ、勘違いと思い込みのまま既成事実が成立しちゃうのが、御免なだけよ!

 懸命に動いて抜け出そうとしても、敵もさるもの。

 あたしの抵抗を難なくかわし、それどころか、こっちの動きを利用してますます寝間着を脱がせてくる。

 夜目にも慣れた月明かりの中、無防備な素肌がヴァニスの下に晒された。

「雫……」

 切ない声で囁くヴァニスの大きな手が、あたしの生身の胸を覆うように包み込む。

 夢中で首を横に振るあたしに、ヴァニスが被さるように荒い息でキスをした。

 その時、ふと、手に何かが触れた感触がした。

 とにかくひたすら必死に夢中に、あたしはそれを自分の方に力一杯手繰り寄せる。

 そして、ヴァニスのキスと手の動きに耐え続けた。

 ……

 ……バタ……

 バタバタ……

 ドタバタバタ……

―― バタ―――ンッ!!

「どうかなさいましたか!? 雫様!?」

 扉を蹴破らんばかりの勢いで、数名の侍女達が部屋の中に飛び込んできた。