銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「それが、お前がこの世界に来た本当の理由だ」

「人の出産予定を勝手に決め付けないで!」

「余が決めた事ではない。これはさだめだ」

「だから、まだ定まって無いって! 全然なんにも!」

「知っている。定めの不確かさはな。だから……」

 ヴァニスの指が、合図のようにパチンと鳴った。

 突然、煌々と照っていた室内の明かりがフッと消えて、一気に暗闇になる。

「今宵、さだめを確実なものにする」

 真っ暗な中、あたしの顔の上から、囁くような艶やかな声が降って来た。

 全身が硬直して、頭の中は『どうしようどうしよう』だけがエンドレス。

 額の髪の生え際に汗が浮かぶ。心臓はもう爆発しそうだ。

 ヴァニスの固く大きな指先が、あたしの寝間着の胸元をあらわにしようとした。

 慌てて抵抗したけど、ヴァニスの服を引っ張る程度の事しかできない。

「雫、逆らう事は許さぬ」

 ヴァニスが耳元で熱く囁き、あたしは思わずビクンと震えた。

 一見細身なのに、筋肉質な体格が服の生地を通して伝わってくる。

 その重み。動き。体温。お互いの息。

 生々しい。全てが生々しくて、あたしはわけも分からず翻弄される。

 素肌が室内の空気に触れて、皮膚に感じるヴァニスの指先の感触。

 どうしよう。どうしよう。誰か。

 誰か、なんとかして。どうにかして。あぁ、どうにか……。

 どうにか……されて、しまう……。

 首筋や、はだけられた肩を何度も上下していたヴァニスの唇と舌が、耳朶に到達した。

 優しく噛まれ、そして囁き声が聞こえる。

「雫。お前だけが余の特別な女だ」

「……!」

 あたしは両目をカッと見開いた。