銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 聞いてない!!

 なんか、一方的に感動的シーンに突入してない!?

 どうしよう! このまま怒涛の流れに持っていかれそうな気がする!

「あたし、そんなつもりは無かったの!」

「恥ずかしがるとは、愛い奴だ」

「じゃなくて! そもそも初めてのキスでも無かったし!」

「ははは……。貞淑な未婚の乙女が、すでに接吻を誰かに許しているはずがあるまい」

 通じてない!

 完全に、あっちとこっちで深刻なすれ違いが生じてる!

 しかも、それに全然気付いて無い相手との、すっごく虚しい会話になってる!

 どうするこの溝!

「あの時、余は確信したのだ」

 あたしの髪を撫でながらヴァニスは微笑む。

「お前が怪我を負った時、余はお前に問うたであろう?」

「え?」

 あたしは記憶を反芻した。

 ジンが町を襲った時? あの時は、たしか……。

『どちらを選ぶ? お前はどちらの側の存在なのだ?』と聞かれた。

 その問いに答えることはできなかったけれど。

「お前はあの時、身を挺して少女を守った。無意識に自分の本心に従ったのだ」

「……」

「傷付いた精霊よりも、お前は少女を選んだ。自分が人間の側である事を、無意識に自覚しているからだ」