銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 ヴァニスは熱に浮かされたような目で、あたしを見下ろしていた。

「説明がつくような答えが欲しかった。だが、もはや説明など不要だ」

「ヴァニス……」

「お前は余のものだ」

 そう言って再びあたしにキスをする。

 両腕を掴まれ、体を押さえつけられて、身動きできない。

 味わうように唇を啄ばまれ、あたしは篭もった声を口の端から漏らしながら、困惑し、翻弄され続けた。

 やっと唇を離してくれたヴァニスは、とても幸福そうな表情だった。

 切ない溜め息をつき、優しい目であたしを見つめている。

「お前は余のものだ。雫」

 その言葉を彼は繰り返した。

 あたしが、あなたのもの? いえ、それは……

「それは、だめよ。だめなの」

「何がだめなのだ?」

 その穏やかで幸せそうな声に、今までとは別の意味で心臓が激しく鳴る。

 罪悪感が込み上げてきて、ヴァニスの顔をまともに見られずに目を伏せた。

 でも、ちゃんと言わなければならない。

「あたし、好きな人がいるの」

 ごめんなさい。あたしはジンのことが好きなの。

 あなたが、こんな風にあたしを想ってくれるなんて思わなかった。

 あなたはとても素晴らしい、立派な人だけれど、あたしの気持ちはもう決まっている。