銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「雫……」
「ヴァ、ヴァニスだめ。待って……」

 さらに接近してくるヴァニスの両肩を、とっさに掴んで押さえる。

「待たぬ」
「待って。だめよ」

 話す吐息の熱が、お互いの唇をくすぐる。

 ヴァニスの広く硬い肩を押し止めても、無駄な抵抗だと分かっていた。

 逃げられない。どうにもできない。

 ヴァニスの熱を感じながら、ただ心臓を跳ね上がらせて、拒否の言葉を繰り返すだけ。

「このまま二度とお前が目覚めなかったらと、余はずっと不安だったのだ。だからもう待たぬ」

「ヴァニス、だめ。だ……」

 黒く熱い瞳が閉ざされ、ヴァニスとあたしの距離がゼロになる。

 彼の唇があたしの拒否を封じ込めた。

 重なり合う唇を強く押し付けられて、あたしの手がびくんと震える。

 ヴァニスの香りに包まれ、ふたつの柔らかい体温が混じり合った。

 広い胸に覆われ、彼の体重を感じて、あたしは呼吸すらままなら無い。

 顔を振って拒絶しようとしたけれど、ヴァニスはそれを許さない。

 より強く重ねてくる唇で、なめらかな皮膚の感触を確かめている。そして、求めている。

 ようやく唇が離れて、解放されたあたしは深く息を吸った。

 大きく胸を上下させながら、泣きそうな顔でヴァニスを見上げる。