銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

遠い幼い日。

無我夢中で剣を握って振り回す。

朝日と共に起き、日が暮れるまで稽古に明け暮れた。

見上げる薄暗い空には、一番星。

疲れ果てた体とカラッポの頭で、いつまでも見惚れていた。

転んでも、血が出ても、怪我をしても、怯まない。

夢があるから少しも辛くはなかった。


「夢は……叶わなかったが」

 穏やかな表情でヴァニスは語る。

 きっと思い出しているんだろう。家族全員が揃っていた日々を。

 揺らぐことの無い幸せな未来が続くと信じていた、少年の日々を。

 彼はそれを失ってしまった。だからヴァニスは、深い悲しみを知っている。

 家族も、愛情も、幸福も、その全てを知っている。

「ねぇ、ヴァニス」

「なんだ?」

「教えて欲しいの」

「何をだ?」

「あなたは、国民を拷問や公開処刑したの?」

 本当にそんな恐ろしい事をしたの?

 幸福も、それを失う悲しみも苦しみも知っているあなたが?

 だとしたら、なぜ?

 国王として国政を司るという事は、重い。

 人間の世界を司るという現実を前にして、時には奇麗事では済まない時もあるだろう。

 苦渋の決断を下さなければならない事情もあるだろう。

 それを聞きたい。あたしは聞かなければならない。

 ヴァニスの……人間の王の話を。