銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 あたしはチラリとヴァニスを見て、すぐまた視線を逸らす。

「雫が二度と目覚めなかったらと思うと、不安で恐ろしかった」

 逸らした視線は、落ち着きなく部屋のあちこちを移動する。

「目覚めたお前が、余に一番に会いたがっていると聞いて、嬉しく思ったぞ」

 意味もなく髪の先をいじり、テーブルの模様を指でなぞる。

「雫、余は……」

「ほ、ほんと意外だったわぁ! まさか剣を突きつけてきた相手が、そんなに心配してくれるなんて思わなかった!」

 あたしは明るい声でヴァニスの話を遮った。

「剣?」

「あらヒドイ忘れたの? 始祖の神の石柱で……」

「ああ、あれか。あれは本気ではない。ただの脅しだ」

「……脅し?」

「それが効果的だと思ったから、軽く剣を向けただけだ」

「向けた『だけ』ってねぇ! 向けられる方の身にもなってよね!」

 脅しかどうかなんて分からないし、本気で怖かったのよ!

 命の危機を感じたんだから!

 こーゆー所、ほんと一般的な感覚とズレてるわよね! 高貴なお方って!

「真面目に殺気を感じたわよ!」

「ふむ。素人ですら殺気を感じたか。……よしっ」

「なに自慢そうに満足してんのよ! あたし本気で怒ってるんですけど!?」

「剣の腕には自信があるのだ。幼少の頃より修練してきたからな」

「へーそーですかー! それはそれは!」

「軍を率いて指揮する事が余の夢だった。王位は兄上が継ぐと思っていたから」

 そう言って、ヴァニスは遠い目をした。

「汗まみれ泥まみれになって、毎日夢中で剣の修練をしていた」