銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 後には引けない。もう後戻りはできない。

 戦いが始まってしまった以上、勝つか負けるかしかないんだ。

 ヴァニスが、なぜ狂王と仇名されるような行為をしたのか。

 なぜ国民に支持されているのか。

 なぜ冷酷さと優しさを、同時に持ち合わせているのか。

 それが、それがようやく今……

―― ドサッ!

 鈍い嫌な音がして、あたしは我に返った。

 その音は、ついに耐え切れなくなったジンが意識を失い、地上に落下してしまった音だった。

 彼の姿は全身切り裂かれてボロボロになり、まるで壊れた人形のようだ。

「ジン!!」

 あたしは悲鳴を上げた。

 地面に横たわりながら、指先が攣りそうになるほど懸命にジンへ向かって手を伸ばしたけれど、当然届かない。

「ジン! ジン! お願い返事して!」

 倒れたジンの姿が涙で曇る。

 どれだけ必死に声を張り上げても、ジンはピクリとも反応しなかった。

 届かない。あたしの手は、声は、届かない。

 ジンにも女の子にも、誰にも何も届かない!

「雫よ」

 静かな声が聞こえた。

 ヴァニスが、頭上に風の精霊達を従えながら立っている。

「さきほどお前は、人々を助けろと言ったな? そして、その風の精霊も救えと言った」

「……」

「どちらだ?」

「……」

「どちらを選ぶ? お前はどちらの側の存在なのだ?」