銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「人質なんて呼ばないで!」

 あたしは顔を歪めて必死に訴えた。

 ノームも、ジンも、あたしの大切な仲間なのよ!?

 この世界に飛ばされてきてから、不安なあたしをずっと支え続けてくれた仲間なの!

 それをまるで物みたいに扱わないで!

「ヴァニス、どうしてなの!? あなたは、あんなに優しかったじゃないの!」

 マティルダちゃんにも、町の人々にも、あんなに優しい言葉や態度で接していたじゃないの!

 あたしにだって、思いやりのある言葉をくれたわ!

 本当はあなた、優しい人なんじゃないの? 心の奥に温かい思いやりを持っている人なんでしょう?

 本当は、狂った王なんかじゃないんでしょう?

 なのにどうして!?

「どうしてこんな冷酷な事をするの!?」

「答えは簡単だ。余は……」

 ヴァニスは本当に、簡単に答えを口にした。

「余は人間であり、あやつ等は精霊だからだ」

 あたしは……絶句した。

 頭を殴りつけられたような衝撃に、今まで叫び続けていた声がピタリと止まってしまう。

『神も精霊も人間も、同じ世界に生息する存在。ただそれだけ』

 あの時ヴァニスは、そう言った。

 その言葉をあたしは、こう理解した。

 みんなお互い、この世界に生まれた、異なる種族なだけ。という意味だと。

 ……違う。そうじゃない。

 世界という、ひとつの縄張りの中。

 自分の種族以外は、相手がどんな存在であれ、食うか食われるかの争いを繰り広げる敵対勢力でしかないという意味なんだ。

 非情な生存競争の、歯車の一部でしかないと。