銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 ジンの顔の皮膚に、一本の傷が走った。

 それが二本、三本と増えていき、ジンは自分の両腕で顔をガードする。

 ピシッピシっと、何かがひび割れるような音が聞こえてきて、やがてジンの服にも複数の傷が走り始めた。

 切れて破けた生地が風に飛び散り、ガードしているジンの両手もあっという間に傷だらけになる。

 ……裂けている!
 ジンの服も、皮膚も、風圧で切り裂かれているんだわ!

 風の精霊達が刃物のような鋭い風で、ジンの体を細切れに切り刻もうとしている!

「やめさせて! ヴァニス!」

 あたしは金切り声を上げてヴァニスに懇願する。

「お願い! ジンが死んじゃうわ!」

 ヴァニスはチラリとあたしを見たけれど、すぐに視線を元に戻し、黙って空を見上げている。

 その表情に憐憫の情はまったく無い。

 ジンを助けてくれる気は無いんだわ!

「ヴァニス! ねぇ聞いてよヴァニス!」

 それでもあたしは叫び続けた。

「ジンを助けて! 彼はあたしの大切な、大切な大切な存在なの! かけがえの無い存在なのよ!」

「……」

「どうか彼を助け……!」

「断る」

 ヴァニスはあたしの頼みを、いとも冷酷に断ち切った。

「ど、どうしてよ!? ノームの事は助けてくれたじゃないの!」

「人質など、ひとりいれば充分。後は邪魔なだけだ」