うねうねと長い首をしならせ、口からは涎がダラダラ零れている馬たちの様子は、完全に化け物度マックス。

 な、なんで涎垂らす必要があるわけ!?

 しかも、あたしを完全にロックオンしながら!

 どうし……いやいい! あえて知りたくない!!

 あたしはドレスを持ち上げ、いまにもスッ転びそうになりながら全力で逃走した。

 妖怪馬達の入り乱れるひずめの音に追い立てられ、死に物狂いで逃げ込んだ先は……。

「……あ」

 石柱トライアングルの、ど真ん中ストライク……。

 う……馬を使って誘い込んだわね!?

 狐狩りの狐かあたしは! どこまで非人道的な真似をするのよ! やっぱり狂王だわ!

「どんと来い、と言ったのはお前自身だぞ?」

 でも当のヴァニスは涼しい顔で、そんなセリフをツラッと吐いている。

「だからって、本当に来させなくてもいいでしょ!? あたしは狩りの獲物じゃないわよ!」

「狩りなどしていない。馬たちと触れ合わせてやろうとしただけだ」

「余計なお世話よ! 涎垂れてる目の血走った馬なんて、触りたくもないわ!」

 狂犬病よりタチが悪いわ! そんな危険物!

「オーエルという者が何者かは知らぬが、お前のような手合いの女の扱いなど、造作も無い」

「な……!?」

「自尊心だけは高いが、中身は至極単純。片手一本で扱いは可能だ」

 こ、この、どこまでも徹底的に人をバカにした物言いときたら!

 今まで会ったどの上司よりも虫が好かない!

「だからあんたのそーゆーところが……!」

 歯を剥いて怒鳴りつけようとした瞬間、石柱が唸るような音を立てて振動し始めた。