「つべこべと言わず、早くせよ」

「嫌です。拒否します」

「拒否する権限はお前には無い。これは命令だからだ」

「あんた、人の話ぜんぜん聞いてないでしょ!?」

「なぜそんなにも拒否するのだ? それこそ理由を言え」

「理由? 自分の胸に手を当ててよく考えたら?」

「ふむ、わかったぞ」

 ヴァニスは小ばかにしたような薄目になった。

「お前、恐れているのだな? 臆病者め」

「臆……!? なによそれ!」

 あたしはグィッと顔を戻して、ヴァニスをギロリと睨みつけた。

「勘違いしないでよ!」

「やれやれ、そちらの世界の人間は軟弱だな。気骨が無い」

「何言ってるのよ! あたしはねぇ……!」

 データ壊した上司に代わって、ニ週間ブッ続けでサービス残業して、立派に資料をまとめ上げた女よ!

 気骨と気概の代名詞って絶賛されたんだから!

「ふっ。なにが気概の代名詞、だ」

「なによ! 嘘じゃないわよ本当よ!」

「双頭の馬にも慄くようでは、その気概とやらの程度も知れよう」

「甘く見ないで! ろくろ首なんか怖くないわ!」

「平気だと?」

「そうよ! まったく平気よ! どーんと来いってなもんよ!」

「よし分かった。……おい」

 ヴァニスが護衛の兵士に向かって手を上げると、兵士達は心得たように頷き、馬にまたがる。

 そして……。

 全員揃って、あたしに向かって突進してきた!

 ぎゃああ!? イヤぁぁ―――!

 妖怪馬が集団で、首をうねらせながらこっちに接近中―――!

 その目が血走ってる! 目ぇぇ――!!