なぜヴァニスは、こんなに揺るぎ無いんだろう。

 なぜ国民は、あんなにヴァニスを支持するのだろう。

 この男が世界の敵なのは間違いないのに。

 ……何かが、欠けている。

 あたしの知らない何かがあるんだ。きっと。

 この世界の事情の中に、ヴァニスが、自分自身を恥じない何かが。

 国民が、あれほど王に心酔する何かが。

 それが紛失したパズルのピースのように、あたしを不安にさせている。

 ひとつぐらいピースが欠けたところで、大局には問題ないはずだ。

 ヴァニスが過ちを犯し、世界を危機に陥れているという大局の事実に変わりはない。

 でも、たったひとつだけポツンと空いた空洞が、否応にも目を引き不安をあおる。

 そこからバラバラと音を立てて、全てのピースが崩れていきそうな不安が……。

「雫、そこへ立て」

 突然ヴァニスが話題を変えて、あたしは自分の暗い思考からハッと引き戻される。

「え? な、なに?」

「そこへ立て」

「そこってどこよ?」

「その石柱の間だ」

「石柱の間?」

 あたしは、白い三本の石柱を見た。

 このトライアングルの中に立てって? あたしに?

 ……。

 なんか、嫌。
 ものすごく嫌。

 な~んか、微妙な恐怖感がふつふつと湧いてくる。