銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

―― カツン、カツン……。

 誰かが近づいてくる音が聞こえてきて、あたしは涙の溜まった目を足音の方向に向ける。

 するとひとりの兵士が柵の前に立ち、手に持った鍵でガチャガチャと錠を開け始めた。

「出ろ」

 柵の扉を開けた兵士が横柄な声で言った。

「ヴァニス王がお呼びだ」
「狂王が?」

 兵士があたしの腕を掴んで、ベッドから強引に立たせようとする。

「痛い。腕を引っ張らないでよ」

「早くしろ。王がお待ちなんだぞ」

「痛いったら!」

 二の腕を鷲掴みされた状態で、あたしは牢屋から引きずり出される。

 そして階段を上がった途端、不自然なほど周囲がパッと明るくなって目が眩んだ。

 腕を引っ張られながら通路を進む途中で、たくさんの人間とすれ違う。

 召使い風の女達や、従者風の小奇麗な格好の男達。

 貴族風の豪華な衣装の男女も、皆、物珍しそうにジロジロとあたしを見ては、コソコソ話し込んでいる。

 あたしが異世界の人間だって事が、たぶんもう広まっているんだろう。

 噂が広まるスピードの速さは、あっちもこっちも共通だわ。

 クスクスという忍び笑いと一緒に、好奇の視線が突き刺さる。

 噂の種。物笑いのネタ。苦痛な記憶が甦り、カアァッと顔と頭に血が集まって、あたしはギュッと唇を噛み締めた。

 ぐいっと顔を上げ真っ直ぐ前を見て、ことさらに胸を張り、背筋を伸ばして歩く。