銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「人様を批判する前に我が身を振り返ったら!? 命の価値を何とも思わないなんて、あんたはバカ王よ!」

「……」

「人の上に立つ資格なんか無い! 狂王と呼ばれても反論できないわね!」

「お前……」

「なによ!?」

「立派な事を言ってるわりに、態度は無様に逃げ腰だぞ?」

「うるさいわね!!」

 別に無様でも何でもないわよ! これは当然の権利でしょ!?

「見逃すって約束したでしょ!?」

「うむ。だからこうして見逃している」

 狂王は深く頷いた。

 ……そ、そうね。本当に見逃してるわね。

 約束を守ったことは、ちょっと見直したわ。ちょっとだけね。

 よし! 今のうちに逃げるわよ!

「じゃ、じゃあ、あたし達はこれで失礼するわ」

「『余は』、間違いなく見逃したぞ」

「え?」

「が、そこの者達は、お前達を見逃すかな?」

「……え??」

 あたしは狂王の視線を追って、背後を振り返った。

 そこには軽装な鎧を身につけた兵士たちがいて、通路を完全に通せんぼしていた。

 そんな……!

 呆然と立ちすくむあたしの横を狂王が颯爽と通り過ぎ、マントが翻る気配がする。

「侵入者だ。見逃すかどうかはお前達の判断にまかせる」

「は! ヴァニス王!」

 兵士たちが駆け寄ってきてあたしを取り囲んだ。

 こ……こ……

「こんの、大嘘つき―――――!!」

 あたしの叫び声が、狂王の軽快な靴音に重なった。