銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 再び剣を抜くような素振りも無く、狂王は自分の髪を掻きあげる。……けっこう長髪、よね?

 彼の様子を見ながら、あたしは少しずつ後方に下がっていく。

 あたしは剣から手を放したんだから、次は狂王が約束を守る番よ? ちゃんと見逃しなさいよね?

「まったくもって無茶な事をする女だ」

 ズリズリと後方に下がるあたしを見ながら、狂王はまた呆れたような声を出した。

「なにがよ?」

「あんな事をして、両手が使い物にならなくなったらどうするつもりだ?」

「あ、あたしの武術の腕前ならそんなヘマは……」

「余が、とっさに剣の動きを止めたから良いようなものの」

「……え?」

「ほんの一瞬の差で、お前の指は床に落ちていたかも知れぬ」

 ……。

 えっと、じゃあ、あれって。

「まさかお前、本当に自分が、余の剣を制したと思っていたのか?」

「……」

 はい。思ってました。

 出来たと思った『真剣白羽取り』。

 じゃ、あれってあたしの思い込み?

 あれまー……っと目を丸くしているあたしを見ながら、狂王はますます呆れた声で呟く。

「異世界の人間とは、皆そのように馬鹿なのか?」

「バカとは何よバカとは!」

 失礼ね! ちょっとした勘違いなんて、誰にでもあることでしょ!?

 そもそもあんたが、ノームを殺そうとなんかするからよ! そっちの方がよっぽどバカだわ!