銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 そりゃ逃げたいわよ切実に!

 でもあんまり事が簡単に運びすぎて、怪し過ぎるのよ!

「『旨い話にゃ裏がある』ってのが、一般常識でしょ?」

「お前の世界の常識など知らぬ。裏も表も無い。お前は逃げたい。余は剣を収めたい。そこにあるのは利害の一致だけだ」

 淡々と語る狂王の表情を詳しく読み取る事は出来ないんだけど、少なくとも、裏や含みのあるような印象は無い。

「しずくさん……」

 ノームの不安そうな声。

 そう、ね。あたしも心配だわ。カンを信じていいのかどうか分からない。

 でもこのままこのポーズを維持し続けるってのも、かなり間ヅラが抜けてる気がするし。

 たぶん、それは狂王が許さないだろう。

 そのうちにシビレを切らして強硬手段に出てくるわ。

 それなら今のうちに、イチかバチかの賭けに出た方が利口な選択かもしれないわね。

「……いいわ。約束は守りなさいよ?」
「分かった」
「男の約束よ?」
「うむ」

 あたしは覚悟を決め、ソロソロと剣から両手を放した。

 狂王は安堵したような息をつき、素早く剣を鞘に収める。

 あたしは警戒しつつ、その様子を伺った。