銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 狂王が呆れたような声を出す。

「一体どうしたいのだ? お前は」

 知らないわよあたしだってそんな事!

 だから困ってんじゃないの! さっきから!

 剣を挟んだまま、ジリジリと焦るばかりのあたしに、狂王は冷静沈着な声で話しかけてくる。

「とにかく手を放せ。このままでは埒が明かぬ」

「……」

「危害は加えぬ。約束しよう」

「……」

「いかにも疑わしげな顔をするのはよせ。それともこのまま、余と共に朝を迎えるか?」

「それは嫌」

「余もそれは真っ平御免だ」

「どういう意味よ!」

「他意は無い。睨み合いで一晩過ごすのは、いかにも愚かしいと言ったまでだ」

 ……うぅ~~ん。
 確かにこのままじゃ堂々巡りだわ。にっちもさっちもいかない。

「ねえ……、あたし達をこのまま見逃す気、ない?」

 剣を鞘に収めてもらっても、その後で力ずくで取り押さえられたんじゃ意味無いわ。

 何とかしてここから逃げ出さなければならない。簡単には逃がしてくれないだろうけど。

 と思っていたら、意外な返答が狂王から返ってきた。

「分かった。見逃そう」

「……はい?」

「見逃す、と言ったのだ」

「嘘!? なんでよ!?」

「逃げたいのではないのか? お前は」