銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「だから約束してくれ。絶対に、絶対に無理はしないと約束してくれ」

「分かってるわ」

「危ないと感じたら、考えるよりも先に逃げ出すんだ。いいな?」

「ええ、大丈夫よ」

「必ず無事に帰ってきてくれ」

「約束する。無事に帰るわ」

「必ずだぞ? 必ず無事に帰ってくるんだぞ?」

 これまでに何度も、あたしとジンの間で繰り返された会話。

 この後、決まってジンはこう告げるの。

「雫、オレにとってお前だけが特別な人間なんだ」

「ジン……」

「失いたく……ないんだ……」

 そしてあたしの胸は、その度に幸福感に包まれる。

 あたしを特別だと言ってくれる相手がいるのだから、きっと無事に帰るわ。必要としてくれている人が待つ場所へ、きっと。

 ジンを悲しませたりなんかしない。絶対しない。

「約束するわ。きっとあなたの元へ帰ると約束する」

「雫」

 あたし達は、焚き火の炎に照らされるお互いの顔を見つめあう。

 そして、そっと触れ合うお互いの指先。

 この気持ちは……? この感情は……?

 その答を求める心の奥で、あたしは疼くような痛みを覚えた。