銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 それだけ言って、ジンが静かに立ち上がった。

「おやすみ。雫」

 火の人形が深く一礼して、また元の焚き火に姿を変えた。

 パチパチと揺らめく明るい炎を背に、ジンがゆっくりとテントに向かって立ち去っていく。

 優しく吹く風を感じながら、あたしは夜空を見上げている。

 ジンの風の気配を感じなくなるまで。

 ……あぁ、本当に溢れるような素晴らしい星達。

 こんな大量の星、プラネタリウムでしか見た事ない。

 まるで作り物のような、この世界の自然の夜空だ。

 彼と……ふたりで見たわ。プラネタリウム。

 暗闇の中、手を繋いで、そして……その場で彼からのプロポーズ。

『雫がこの世界に生まれてくれて良かった。雫は、この世でたったひとりの特別な存在だ』

 爆発しそうな心臓の音。緊張して固まる体。アナウンスの説明なんて、まるで耳に入らなかった。

『雫に出会えた事、神様に感謝してる。本当だよ』

 湧き上がる幸福感。泣き出しそうなほどの喜び。

『結婚してください』

 一生……一生忘れないと誓った。

 涙で潤む、この星空を。

 たとえ作り物であったとしても、あたしにとって、どの世界の星空よりも美しく輝くこの星空を。