銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 片一方からの視点だけでは分からない、隠れた真実ってものが世界にはあるんだわ。

 火の精霊は極力、自分の感情を押さえようと無表情に努めている。

 なんだかその姿が妙にいじらしく見えて、ちょっとおかしかった。

 ついさっきまで、この無表情は不気味としか感じなかったのに。

「あたしが少しでも役に立てるなら嬉しいわ。どうぞよろしく。火の精霊」

 水に流すとか、行動を許可するとか、そんな権利は本来あたしには無い。おこがましいわ。

 ただ、一緒に戦いたいって言ってくれたことが嬉しかった。

 仲間になりたいって言ってくれた言葉が、本当に嬉しかった。

「きっとモネグロスだってそう言うに違いないわ。頼もしい仲間が増えて、とても心強いって」

 そう伝えると、かすかに火の精霊の唇が微笑んだ。

 途端に焚き火の炎がまたチラチラと揺らめき始めて、慌てて表情を引き締める火の精霊を見て、あたしは笑ってしまった。

「雫よ、ありがとう。ありがとう。我は心から感謝する」

 あたしに繰り返し感謝の言葉を告げて、火の精霊はテントに戻っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、あたしはふぅっと息を吐く。

 そして膝を抱えて、また焚き火を眺めた。

 さっきまでよりも、さらに生き生きと見える火の色に、あたしの頬は自然と緩み、ほっこりした気持ちになる。

―― フワリ……。

 あたしの髪と焚火の炎が、風に揺れた。

 あ、この風は……。

「ジン?」
「正解。よく分かったな」