銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「水に……」

「……」

「水に流すのなら、お手の物よ。なんたって、水の力の持ち主ですからね」

 真紅の髪が揺れ、火の精霊が顔を上げる。

 あたしは彼に向かってニコリと微笑んだ。

「こちらこそ本当に申し訳なかったわ。どうか許して」

「雫、では?」

「ええ。これからどうぞよろしくね」

「おお! 雫!」

 火の精霊の手の力が一層強くなり、不安そうだった表情が歓喜に包まれる。

 すると焚き火の炎が、一気に倍ぐらいの大きさにボボッと膨れ上がった。

「うわ!? あちあちち!」

「雫! 心から感謝する!」

「あち! 火の粉! 火の粉!」

「お前を、我の火で守ると誓おう! この全身全霊で!」

「その前に、この焚き火を何とかして! 守られるどころか、この火でヤケドしてるんですけど!」

「おお、す、済まない。つい」

 火の精霊が慌てて焚き火に手をかざすと、ふぅっと火の勢いが弱まって、元通りに落ち着いた。

「ふぅ、ビックリしたわ」

「我ら火の精霊は、往々にして『加減』というものが良く分からず」

「……そうらしいわね」

「だが、お前がいればその心配も無用」

「あたし?」

「うむ。水は常に火を抑えてくれる。火にとって水は、ある意味において不可欠な存在なり」

 ああ、なるほどそうか。

 火と水って、相反する物ってイメージしかなかったけれど、そういう一面もあるのね。