銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 辛い事があって、壁にぶち当たって、何もかもが嫌になった。

 乗り越えようとする事も、考えようとする事も、あの世界で生きていく事も、すべてを放棄した。

 それで当然だって思ったの。『仕方ない』って思った。

 だって仕方ないじゃないの。あたしは裏切られたんだからって。

 あたしは傷付けられたんだから、死を選んでもそれはあたしのせいじゃない。

 あたしの責任じゃなくて、全て周りが悪いんだ。周りの責任なんだって。

 そう自分の心に言い訳して、逃げたの。

 死を選ぶという決断をしたのは、間違いなくあたしの意思なのに、責任全部をなすり付けて、あたしは逃げた。

 火の精霊に、そんな感謝なんかされていい立場じゃない。

 でもそんな事、とてもじゃなまいけど恥ずかしくて言えないわ……。

 身の置き所の無い気まずさと申し訳なさで、あたしの視線は宙を彷徨う。

 火の精霊は、そんなあたしの前にひざまずいて、そっとあたしの両手をとった。

「雫よ、どうか我が行動を共にするを許せ。どうか、今までの非礼を水に流して欲しい」

「……」

「どうか……どうか……」

 あたしの両手を包み込む、大きな手はとても温かい。

 じんわりと爪の先まで、心地良い温かさが伝わってくる。

 目の前の燃えるような真紅の髪が、暗闇に映えて美しい。

 あたしはしばらくの間言葉もなく、その美しい真紅を見ていた。