銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 それは仕方がない事。そう、仕方がないから、我は砂漠へは行かぬ。

 長から、風の精霊とお前を城へ連れて行くよう命を受けた時も、命に従うが当然と思った。

 仕方がない。逆らえば、我ら火の精霊全ての立場が危うくなる。

 全精霊達の存続のためにも、仕方がないのだと。

「我はそのように思慮し、そう決めた」

「それは、本当に仕方のない事だと思うわ。あんたがそう決めたのも無理も無い話よ」

「違う」

「……え?」

「我は、逃げた」

「逃げた? どこから?」

「我自身の心より」

 無表情から、苦悩の表情へ。火の精霊の表情が彼自身の心の動きのように変貌していく。

 噛み締めるように彼は、言葉をひとつひとつ搾り出していった。

「我も、本心では砂漠へ旅立ちたかった。でも長の命令だから、我慢したのだ。仕方がなかったのだと、自分に言い聞かせた」


 我は決して、アグアや風の精霊達を見捨てたのではない。

 仲間の火の精霊達のために我慢したのだ。仕方がなかっただけだ。

 これは、我の本心ではないのだ。