銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 あれほどの勢いを誇っていた炎はたちどころに消え去って、反対に水の勢いは増すばかり。

 土に吸収しきれなくなった水が足元に溜まり、地面を覆った。

「もっと……もっとよ!」

 水に煙る空間の向こうで、火の精霊の影がヨロリと揺れた。

 その身に纏っていた炎はすっかり消え去り、紅蓮の炎のような赤髪も、いまはベットリと濡れそぼっている。

 完全に力を失ってしまった様子で、立っているのもやっとだ。

「もっと! もっと! もっと!」

 ついに炎の精霊が、崩れるように倒れた。

 地に溜まった水と、上から叩き付ける水に挟まれ、彼は身動きすらしない。もはや意識不明なのだろう。

「もっと! もっと襲い掛かれ!」

「し、雫……」

 モネグロスが、激しい水音にかき消されそうな声で、あたしの名を呼んだ。

「雫……もう止め……」

 モネグロスの声は、耳に聞こえても頭の中には残らなかった。

 あたしの頭の中は、ある意識に占領されてしまっているから。

 怒り。復讐。そして、それが果たされる快感とに。

「雫……止め……火の精霊、死んでしま……」

「もっとだ! もっと襲い掛かれ!」

 こんな極悪を許すものか! あたしの怒りは正しい!

 そうだ! これは正義の裁きだ!

 だって絶対に、間違いようも無く、火の精霊は許されてはいけない存在なんだから!