銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「神の、ふね……」

 青白い炎に焼かれる土の精霊の体は、もはや炭のように黒ずみ、崩れかけていた。

 それでも、指先だけはひくりひくりと動いている。

 初めて巡り会えた大切な兄弟である、神の船に向かって……。

 土の精霊は、切れかけた糸のような細い声で、燃え盛る神の船に向かって懸命に語り掛ける。

「か、みの、ふね……」

『……?』

「か、み……の……」

『……』

「わた、し……兄弟……」

『……あ』

 神の船から届いた、最期の意識。

『……あ、なたは……?』

―― ……誰?


 地響きと共に、神の船は焼け落ちた。

 無残に崩れ落ちる、ただの木材と化した神の船は、巨大な焚き火のように天高く燃えあがる。

 あたし達を守ってくれた神の船が、何の望みも叶えることなく、煙と煤となって天に昇っていく。

 ……土の精霊が、自分にとってのなんであるかを知る事すらもなく。

「か……」

 かすかに動き続けていた土の精霊の指がの動きが、ついに、止まった。

 神の船に向けられていた、黒ずんだ指先が地に落ちて、ボロリと砕け散る。

 その、すべてを、あたしは……

 ただ、眺めていた……。