銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 火に包まれた細い腕が、なにかを求めるように前方に伸ばされる。

 その届かぬ指の先にある物を見て、あたしは悲鳴をあげた。

「神の船が!」

 神の船が、激しい炎に包まれて燃え盛っている。

 船体の全てを覆い尽くす凄まじい炎の唸る音が、まるで神の船の絶叫のように聞こえた。

「ああ! 神の船が燃える!」

「雫! 動いてはいけません!」

「でも神の船が! 土の精霊が!」

 あたしは無我夢中で、火の精霊に向かって叫んだ。

「止めて――! 火を止めて――! お願い! 土の精霊が、神の船が、ジンが……!」

 みんな……みんな死んでしまう!

「火の精霊! どうか正気に戻って――!」

「雫! 無駄です! もはや火の精霊の耳には何も聞こえません!」

「嫌あぁっ!!」

 叫び続けるあたしの心の中に、苦しげな神の船の意識が流れ込んできた。

 縋るような心に浮かぶ、船の記憶。遠い日の、大切な記憶が。


『……ねえ、神の船……』

船体を撫でる、白く美しく長い指。

『あなたは、この世界で最も美しい乗り物よ』

優しい声。清らかな響き。

『あなたは私の誇り。かけがえのない友』

深く固い絆で結ばれし、無上の存在。

『水と船。私達は永遠に共に……』