銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「あ、あなた……」

「風の精霊は、なんとかして助けます。だからモネグロスを連れて逃げてください。そして、どうかアグアを救ってください」

 土の精霊の頬を、はらはらと涙が零れ落ちる。

「砂漠の神殿のオアシスは、わたしと同じ種からうまれた、わたしの兄弟なんです」

「あなたの兄弟?」

「はい。とおく離れ、いちども会うことはなかったですが」

 あの廃墟同然と化した神殿のオアシス。

 あの、悲しく枯れた木々たちが、この子の兄弟。

「アグアは豊かな水で、優しくあの子達をまもり育ててくれました。その木から、神の船もうまれました」

 土の精霊は、涙を手の甲で拭いながら話してくれた。

 土を通じ、緑を通じ、死滅寸前の悲鳴が毎日聞こえてくる。

 木々や、神の船の悲しい呻き声が。

 アグアの水を求め続ける、死に絶える寸前の、兄弟達の断末魔の嘆きが。

 なにもしてあげられない自分の耳に。

「だからどうか、アグアを救ってください」

「……」

「さあ早く。えんりょはいりません。思い切り!」

「……わかったわ。ありがとう土の精霊! あなたの気持ち、きっと無駄にはしないからね!」

 あたしは両膝をぐいっと曲げた。

 土の精霊は、両目をギュウッと瞑って衝撃に備えている。

 こんな小さい子を蹴り飛ばすなんて、罪悪感がハンパ無いけど、そんな事言ってられる状況じゃない!

 ごめんなさい! 許して土の精霊!!

 あたしは勢いをつけて、土の精霊を蹴り飛ばした。

 小柄な体が派手に引っくり返って、あたしの体を締め付けている蔓が緩む。

 ……今だ!