銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「でもあれってただの脅しじゃないの? いくらなんでも土の精霊全員を、皆殺しはないでしょう?」

 なんてったって、精霊の仲間同士なんだし。

 ちょっと脅して、言う事を聞かせようとしただけじゃないかしら?

「ね、だからお願い。この蔦を解いて」

「いいえ。火の精霊は、やると言ったらほんとうにやります」

 土の精霊が首を横に振った。サワサワと豊かな長い髪が揺れる。

「火の精霊には、嘘とか中途半端とか、冗談とかはつうじないです。その中でも、特に彼にはつうじないです」

「……」

「いつでも、本気しかないです。彼はそういう精霊です」

 真面目な顔で言い切る土の精霊に、あたしは困惑してしまう。

 なるほど。よりによって、一番短絡思考で融通利かない奴を寄こしたわけか。

 この子の立場も事情も分かるけど、こっちの事情も崖っぷちなのよ!

 モネグロスは倒れた拍子に、またグッタリと力を失ってしまった。

 一切の応答の無くなったジンも心配だし、どっちも切羽詰ってるのよ! 一刻の猶予も無い!

 いっそこの子を、尖ったヒールの先で思いっきり蹴り飛ばして……。

 自分の踵と土の精霊との距離を、目測で計算していると、土の精霊がチラチラと横目で火の精霊の様子を伺い始めた。

 そして、小声でひそひそと話しかけてくる。

「だから、わたしを攻撃してください」

「え?」

「その人間の武器で、わたしを思いきり蹴ってください」

 心の中を読まれたのかと驚くあたしに、ひそひそ声は続く。

「わたしは気を失ったふりをして、蔓をゆるめます。そしたら逃げてください」