銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「だから娼婦じゃないって何度も言ってるでしょ!?」

 こいつら、ずーっと今まであたしのこと、娼婦だって勘違いしてたのか!?

 ガー!っと怒りが頭の天辺まで到達して、到達し過ぎてそのままスコーンと突き抜けた。

 そしてガックリ、気力が萎えた。

 怒りを突き抜けて悲しいわよ、ほんと。

 こっちの世界じゃ、女性はロングスカートが常識なわけね?

 丈が短いってだけで、男を誘う商売だと思われちゃっても仕方ないのね。

 あたしって、『娼婦です』って首から看板ぶら下げてるようなものなのね?

「ジン……」

「なんだ?」

「近くに衣料品店、ない……?」

 着替えたい。切実に。
 異世界トリップって、地味な部分が想像以上に大変……。

「娼婦でも、その女を城に連れて行くのに変わり無し」

「しつこい! だから娼婦じゃないって!」

 いいわもう。後でゆっくり誤解は解くから。

 とりあえず今は、この真っ赤っかな単細胞をなんとかしないと。

「雫は放しませんよ!」

「ここは諦めて退けよ、火の精霊」

「いや、退かぬ。そちらがどうしてもと言うなら……」

「なら?」

「力に訴えるのみ!」

 いきなりゴウッ!という音と共に、火の球が飛んで来た。

 真っ赤に燃える球体が、ジン目掛けて一直線に飛来してくる。

 ジンの銀の髪が風に吹かれて逆巻いて、鋭い音と風圧が火の球を一瞬で消し去った。

 ふたりの間に風に散った花びらが舞い、火の精霊とジンの視線が絡み合った。