銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 その言葉を聞いたあたしの胸に、爽やかな風が吹き抜けた。

「……もう! 心配しちゃったじゃないの! なによぅカッコつけちゃってさ!」

 モネグロスは口元に微笑を称え、ジンを見守っている。

 きっと最初から、ジンの心の内をちゃんと理解していたんだわ。

 男ってのは厄介だけど、男同士の友情っていいもんだわね! ちょっと感動だわよ!

「精霊の側から離反し、神の側へつくと言うか?」

「ああ。オレはな、風なんだよ。自由の象徴さ。だから誰の指図も受けない。己が望む方向へ吹くのみだ」

 ジンの銀色の髪が、ふわりさらりと風に吹かれて心地良さ気に揺れている。

「人間との共存は望まぬと?」

「共存は別にかまわない。だが今の状況は、ただの依存とおもねりだ」

「そうしなければ、生き延びられぬとしてもか?」

「媚びへつらうのは、まっぴらごめんさ」

 ジンは肩をすくめて首を横に振る。

「嫌なものは嫌だし、好きな方へ吹く。それが風なんだよ」

 揺れる銀の髪が、強い決意を湛えた銀の瞳が、気高く、強く輝いている。

 大勢の仲間から、たったひとりで離反を決意したジン。

 本当は、とても心細いのかもしれない。きっと悲しい思いを抱えているだろう。

 それでも、自分の選んだものを守り通そうとしている。

 モネグロスと、アグアさんと、自分自身の誇りを。

 その姿は、まるで意思を持った美しい銀色のナイフのように見えた。