「ただ、すこしだけ、見なかったことにできませんか? すこぅしだけ、風の精霊達に、気がつかなかったことに……」
「黙れ」

 凄みのある恐ろしい声が、火の精霊の口から飛び出した。

「それ以上言えば、この場でお前を跡形も無く燃やし尽くす」

「……!」

 それまでの淡々とした態度とは打って変わって、強い怒りを孕んだ火の精霊の言葉に、土の精霊が怯えている。

「我ら火の精霊が、全ての土の精霊を焼き尽くすが、それでも良いか? それでも長を裏切ると言うか?」

 土の精霊は恐怖に満ちた顔を両手で覆い、シクシクと泣き出してしまった。

「おい、少し冷静になれよ火の精霊。なんなら、そこの湖の水を頭からぶっかけてやろうか? 土の精霊相手に凄んでも何もならないだろうが」

 火の精霊の険しい表情がそのままジンに向けられたけれど、ジンは素知らぬ振りだ。

「考えてもみろよ。人間達の生活は、オレ達精霊がいなければ成り立たないんだぞ?」

「それが?」

「だから、オレ達が一致団結して人間に反旗を翻すんだ。お灸を据えてやるのさ。そうすれば人間達も、きっと目が覚める。ま、これは雫の受け売りだけどな」

 火の精霊の赤い目が、チラリとあたしを見た。

 なんか、怖い、この人。この無表情さ加減が、なんとも底の見えない怖さを演出してる。