“エリーゼのために”が控えめに流れ始めた。
緊張しながらひたすら待つ。
しばらくして、保留音が切り替わる音がして背筋を伸ばした。
「はい、お電話かわりました。松居です」
!?
あれ?
「いえ、あの、的井先生を…」
聞こえてきた声は的井先生の声とは違った。
若いけれど、先生みたいな柔らかさはなくて、ちょっとぶっきらぼうな感じの声。
聞きなれない声に戸惑っていると、相手はくすっと笑った。
「ああ、的井先生ね」
ちょっと待ってね、という言葉のあと、また最初の女の人の声にかわり、彼女は何度も謝ってきた。
「すみません、聞き間違えてしまいました。的井先生ですね」
的井先生と松居先生。
確かに似ている。
相手には見えないというのに、わたしは首をぶんぶん横に振った。
「いえっ、わたしの滑舌が悪かったせいで」
「すぐおつなぎします、すみません」
”エリーゼのために”再開。
わたしの様子を見て、冬実が怪訝そうな顔をした。
「何が起こったのよ何が」
「いや…、えへへ」
まさかのハプニング。
だけどおかげで緊張も和らいだ。



