松居先生、幸宏には話さないだろうと思っていたのに。
驚きに目を見開くと、幸宏はにっと笑った。
「兄貴が教えてくれた。お前が泣かした子が来たぞってな。そうかー、琴乃は兄貴が好きなのか」
強力なライバル出現だな…、
と言いながら腕を組みだした幸宏に、誤解が深まる前にとあわてて首を横に振った。
「違うよ、わたしが好きなのは違う人…」
言ってから、はっとした。
好きな人…
的井先生…
的井先生のことを思い出して苦しくなった。
今日は思い出さないようにしようって、思っていたのに。
「琴乃?」
急に沈んだわたしを、幸宏が心配そうに覗き込んできた。
なんでもない、と言って無理矢理笑顔を浮かべると、幸宏は一瞬の間を置いた後でそっか、と笑った。
それからは冬実や幸宏の隣にいた男性も交えて談笑した。
そしてわかったことがある。
みんな、恋で悩んでる。
悩んで、苦しんで、傷ついてる。
幸せなばかりの恋なんて珍しい。



