2.苦い別れは運命の出会い!?
「…ていうか、あんずがケーキ食べてるの見てたら私もおなかすいた。なんか頼もうっと。」
みかさがメニューを手に取る。
Patissrie Amagase(パティスリーあまがせ)は、ケーキの美味しさはさることながら、メニューも素敵。
今どき珍しい手書きのメニューだし。
メニューリストの字がとっても綺麗で丁寧で。
それに加えて、ちゃんと女の子が好きそうな感じに統一されている。
私がこのお店が好きなのは、ケーキの味だけじゃなくて、こういう細かい気配りが凄く好きだからだ。
「すいません。」
みかさが店員さんを呼ぶ。
「いらっしゃいませ、お伺いします。」
「…て、あれ、天ケ瀬?」
店員さんを、目をぱちぱちさせながら見るみかさ。
「…あれ、森?」
森は、みかさの姓。
店員さんも、心底びっくりしたようにみかさを見る。
「天ケ瀬、こんなとこでバイトしてたの?」
「あー…バイトじゃなくて…」
「…Amagase…、あ、ここって天ケ瀬の家の店だったんだ!」
みかさが納得したように頷いて店員さんを見る。
「うん、まぁ…。給料ほぼ出ねーしやってらんねーけど。」
少し困ったように頭をかく店員さん。
「あはは、まぁ頑張って!」
みかさが笑って店員さんの腕を叩く。
…ずいぶ親しそうだけど、みかさの知り合いかな?
私が不思議そうに二人を眺めていると、不意にみかさが私を見た。
「あ、そっか、あんずは文学部だから面識ないね。」
「え…?」
「おんなじ学部の、天ケ瀬陽向。ここ、天ケ瀬んちのお店なんだって。」
私とみかさはおんなじ大学に通ってるけれど、学部が違う。
たまに教養科目で同じ授業を受けることはあるけれど、基本的にはばらばらだ。
私がぺこりと頭を下げると、天ケ瀬くんも浅くお辞儀をしてくれた。