三郎は今すぐ飛び出して、ジャンピング・ニー・バットをぶちかましたいところだが、ここは霧吹に言われた通りの行動をしないと、自分が逆にチョークスリーパーをかけられ自らの意志に反して意識を飛ばすことになりかねない。
振り返れ～
振り返れ～
振り返れこの野郎がよ～
黒魔術のような呪いをクローゼットの隙間から部屋に侵入中の男の背中に送る。
通じたか通じないかはさておき、男の体がぶるっと身震いした。
「ふ。いないなら仕方ありませんね。せっかく会いに来たのに残念です」
男はメモに何か一言書いた。
「僕が来るまで待ってから買い物にでも行けばよかったのに。そのほうが楽しく二人で買い物に行けたのに。残念です」
含み笑いをお土産に、男はメモをベッドの上に置いて静かに部屋を後にした。
玄関にきちんと揃えておいた靴のかかとを踏まないように靴をはき、とんとんと爪先を叩き足をしっかりと靴の中に収めた。それから音を立てずに静かに部屋をあとにした。
礼儀正しいこそドロやストーカーは、聞いたことが無い。
こいつが本当に犯人なのかと疑いの眼差しをクローゼットの隙間から向ける三郎の額に三本の線が入った。
