「生物の定義だと?」
霧吹はその学生を睨んだ。
「お前はどう考えるんだ?」
男は度胸とはこのことか。
大人数を目の前にしても動じない霧吹は質問を交わす術も持っていた。
「生物とは生きているものであり、生きているとは生命があるいうことであり、そして現在では」
「しゃらくせい! だまらっしゃい! クソガキが!」
せっかく学生が発言しているのを、いとも簡単に遮った。
豆鉄砲をくらった顔をした学生は、霧吹の次の言葉を待った。いや、待つしか他に方法は無かった。大人に暴言を浴びせられた子供は固まってしまうようにできている。
「そんなもんじゃねーだろうが、ぉあ? 生物ってのはよお、生物ってえのはよお、あ?」
教卓の両サイドにドンと手をつき、何かを発見した子供のようにいたずらに笑う霧吹に、葵はそれはそれはとても深く嫌なものを感じた。
教授は、背筋を正し、霧吹の言葉を待った。
「生物ってのはなぁ」
ごくりと唾を飲む学生。
神様お願いします!
と、再度頭を下げまくり、神様に、一生に一度のお願いをする葵。

