200人は収容できる大講堂には既に200人超えの学生が集まっていた。
ゆかりは入り口から入って来た葵を見つけると、手を振って、ここだよ! と合図した。
葵も手を振り、ぎゅうぎゅう詰めの学生の間をぬって小走りにゆかりのところへと向かう。
入り口のドアのところには大学にはいささか不釣り合いな男二人がかったるそうな態度で立っていた。もちろんそれは霧吹と次郎に他ならない。
後から入ってくる学生がその風貌にびびり、なんだかよく分からないが「お疲れ様です」と声をかける者もいた。
「おはよう! あんた朝からメールして電話もしてんのになんで返事しないわけ?」
第一声目は文句から始まった。
「あ、ごめんごめん今日電話家に忘れちゃって、あははは」
霧吹に自宅に置いたままにしろと言われたので、電話は家に置きっぱなしだ。もちろん友達に連絡する暇なんて与えられず、葵の都合など完全に無視されたわけだ。
「へぇ、忘れるなんて珍しいね。でもま、間に合って良かったわ。これ今日と来週の2回講義だからね」
「うん。落とすわけにはいかないしね」
「この教授厳しいって有名でしょ。見てよこの人数、4年生も混じってるってね。2年連続落ちてる人もいるみたいだから、超真剣にやんなきゃだよね。この単位が取れなくて、留年した人けっこういるみたいだし」
「だよね、てかちゃんと2年生の時に取っとくんだったなぁ」
葵は大学バッグからテキストとノート、ペンという最低限必要なものを取り出し、机に置いた。

