「あ、いいですよ! 私持ちますから」
慌てて持とうとする葵を手でいなす。
「残りはそのうち次郎に取りにこさせるから」
「残り?」
「ほとぼりが冷めたころにでもこの家の物は全部運び出す。うちの空いている部屋に投げ込んで、新しい家が決まり次第おさらばだな。まぁ、あれだ、どこぞのクソガキをとっつかまえてからだけどな」
「えっとその、2、3日くらいここに帰らないだけでいいんじゃないんですか?」
「2、3日で捕まえられりゃ俺は必要ねーって話だろうが。誰が言ったそんなこと」
「えええ……と、その、2、3日分しか入れて……ないんですけども」
目を見れないけど、
絶対的に上を向くのは恐いんですけれども、
北極の氷のように冷たい霧吹の目が、自分を見下ろしているのを五感でひしひしと感じる葵は、
小さい体を更に小さーくして嵐が過ぎるのを待つことしかできなかった。

