しばらくするとすーすーという寝息がどこからともなく聞こえ始めた。
え? まさかの? まさかの?
葵は荷物を詰める手を止めた。
ベッドに入り込み、おとなしくなった霧吹をまさかの疑惑でゆっくり見る。
寝てるし!!! やっぱり。
さらさらの黒い髪の毛が鬱陶しそうに目にかかっていた。
目鼻立ちのいい小さい顔は、顔だけ見ればモデルにもなれるだろうというくらい整っていた。
問題はそのバカなところとそれに比例する性格の悪さだ。そして女癖の悪さ。顔のいい男はたいがいバカだとはよくいったものだ。
この男に関して言えば、確実にその言葉が当てはまる。
葵はそーっと霧吹に近づき顔を覗き込む。
綺麗な顔。まつげは長いし肌も綺麗、寝顔がきれいな人は本当に綺麗な人なんだ。
そして、男なのにヒゲが無い。
「しゃべらなければ、とってもいいのに、ほんとに残念な人だな」
クスッと笑って小さい声で言い、目にかかった前髪に手を入れ、後ろに、
パシッと手首を掴まれビクッとする葵。
「しゃべったらもっといいの間違いじゃねぇのか? こら? あ?」
そのセクシーなハスキーボイスに加え、変な魅力を発する霧吹の瞳に見つめられ、目が泳ぐ葵。
ドキドキしてまともに霧吹の顔が見られない葵は、恋愛経験皆無なため、この場合、どういった態度が適切なのか、どんなことばを発したらいいのか、はかり知る天秤すらも持ち合わせていない。
そんなときにする行動はただひとつ。
ただただ、どぎまぎするしかなかった。

