「起きたか?」
聞き慣れた懐かしい声が聞こえ、その方を目で追うと、天井角にスピーカー。
声はスピーカーの中から聞こえてくるのが分かった。そのセクシーなハスキーボイスは相変わらずだった。
「霧吹さん?」
「おお、そうだ」
「私のことひいたの、霧吹さんなんですね」
今こそ言ってやれ! これですべてがはっきりする。
「んにゃ(違う)」
そうくるのも想定の範囲内。
「ちゃんと見ましたから」
「次郎だ。俺は乗ってただけだな」
「でも車の持ち主は」「組の物だ」
「私のこと三度もひいたんだから、」
「ひいてはいねえ。はねたんだ。そこんとこ間違えんじゃねぇ」
「んー、は、はねたんですから、責任取って下さいね」
口だけは自由に動くのをいいことに、スピーカー越しに声を張った。
無言。
エベレスト山頂には植物すらないという。
生き物がいない場所には音は無い。そして匂いも無い。
今こうして生きているから、いろいろな音が聞こえるわけだが、全く生き物がいない場所では音は、
『しーーーーーん』
と聞こえるということだ。今がまさしくそれだった。

