「若」
車が首都高に入ったあたりで次郎が黙り込む霧吹に声をかけた。
「ん?」
顎を突き出して返事するところは、さすがに、あれだ。
「実はうちにも葵さん来たんすよ。何回も」
霧吹はそれには何も言わない。
「まぁ、四郎が門前払い食らわせ続けて、今はもう来なくなりましたけど」
「そうか」
「会いに行きますか?」
「いや、もういいだろ」
会いたいと思う気持ちを心の奥に閉じ込めた。
まず、葵は真面目すぎるし、それに一応かたぎだ。ヤクザ屋さんの女になるにはウブすぎるし、歳だって違いすぎる。葵の将来のことを考えると、霧吹は思い切った行動には出られなかった。
子猫がうっとうしそうにその閉じ込められた心を蹴り飛ばした。
「葵さん、卒業しましたよ確か」
「そうか、で、あの野郎はどうした?」
「マグロ漁船ですか? あいつはなんかマグロ釣りが性に合ってるみたいで、まんま青森に居着いたってマクロさんから連絡入りました」
「おお! じゃ、修が言ってたように、立派な『漢』になったんだな」
良かった良かったと頷く霧吹は、
「でだ、もちろんいいマグロはこっちに入ってくんだろうな?」
「へ、へい、もちろんそれは届けさせます」
「よし」
ブラック営業も忘れない。

