「若! 大丈夫ですか! 美紀子さん勘弁してくださいよ。今それはダメなやつっすよ!」
霧吹を気遣いながら美紀子を目で睨む。
「はは、ごめんごめん、悪かったって」
胸の前で両手を合わす美紀子は真っ赤なグローブをはめていた。真っ黒いつばの広い女優帽を斜めに被り、真っ赤なタイトめワンピース、靴の裏が真っ赤なハイヒール、ダイヤモンドのネックレス、真っ黒いサングラスにやはり唇はつやっつやの真っ赤なリップだった。
こちらもどうみてもそちらの筋にしか見えない。
「……将権」
ずーこずーこと足を引きずって近づいてくる男が声を掛けた。
「おっせーぞ。ちんたらすんじゃねーよおめーはよ。こんなとこに長時間車停めてたら職質はいんだろうが。早くしろ」
「そんな意地悪言わないでよ」
言うやいなや美紀子が自分の肩を貸した。男は美紀子の肩をなんの躊躇もなく借りた。修だ。
修の顔は元の顔がどんなんだか分からないくらいに腫れまくり、帽子を目深に被ってサングラスをかけていても隠しきれていない。
いつも一緒にいる運転手が修の肩を抱き、美紀子と三人寄り添うように歩く。よく見りゃ霧吹の車の後ろにはこれまた無駄に長ったらしい白いリムジンが仲良く並んで停められていた。
「……悪かったな」
気持ちしょげこんでいる。
「あ? ああ、おお、おお、迷惑被ったぞこのやろう。お前のおかげで俺はよ、肋骨を折って、足も折ったし、殴られて鼻もおかしくなり、しかも何発も撃たれてよ、防弾チョッキ着てなかったら死ぬところだったってことは、言わねーでいてやるよ」
汚い笑みを浮かべた。
「……」
ばつが悪そうに静かになる修は、顔を上げずに帽子の上から頭を掻く。霧吹なんかよりも更にひどい目にあっていたことが分かる。松葉杖に包帯ぐーるぐるで体中が腫れまくっていた。これじゃ歩くミイラだ。
「ま、あれだ。お互いよ、こうやってまた故郷の地を踏めたんだから、それでいいんじゃねーのか」
次郎に行くぞと合図する。

