その頃、霧吹は相も変わらず白いスーツを着ていた。そして相も変わらずシャツは黒だ。
成田空港に降り立った霧吹は、成田空港の『お味噌汁』の香りに最大限に癒されていた。
「やっぱよ、あれだな、それだな、これだよ。そうだよ。なぁ?」
あいかわらず指示詞で話す霧吹に、
「へい、そそそーっすね」と、合わせる次郎。
「日本は寒いな」
次郎は霧吹の肩にミンクのコートをふわっさとかけた。白いスーツにグレーのミンク、金縁で囲われた真っ黒いサングラス、これではどんなに好意的に見ても、『そっちの人』にしか見えない。
車寄せにはこれまた無駄に長いリムジンが一台、いや、二台、ん? 三台、四……。
いつもの黒塗りに乗り込む前にタバコを一服吹かし、長旅の疲れを少しばかり癒した。
「いててててててて」
深呼吸をするとまだ肋骨が痛むがタバコは別腹だと思った霧吹はあからさまにふてくされた。
「クソが。いてーぞちきしょう。タバコは大丈夫なんじゃねーのかよ」
「お、おかしいっすね、タバコは大丈夫かもしれませんが、まだ痛むなら肺に入れずに葉巻みたいに薄く吸ったらいいんじゃないっすかね」
「あ? なるほどな、薄くか。よし分かった」
「それはそうと若、本当にお疲れさまでした」
次郎が恭しくかなり低く頭を下げた。
「なんてことねーわなこんくらいよ。ただ少しばかりやられちまったけどな。仕方ねーよ」
薄くタバコをふかしてみる霧吹は肋骨が痛まないことに顔をほころばせた。
「ありがとね……将権」
霧吹の背中を触れるか触れないかの強さでぽんと叩いた女性が一人。
「おお。いいってことよ」
迎えに来ていた美紀子に笑顔で答える霧吹は特段変わった様子はなかった。
「結構しいんどい仕事だったんじゃないの?」
「いや、楽勝だったぞ」
「……そう、それならいいんだけど」
美紀子は霧吹の胸の辺りを指で押す。
・・・・・ふんがっ!
声にならない変な奇声が霧吹から漏れた。
「ほーらね」
勝ち誇った顔には意地悪な笑顔を浮かべている。

