保健室は、やはり男子生徒たちによって入口が塞がれてしまっていた。

彼らは私の顔を見ると気まずそうに中へ通してくれる。

保健医に包帯を巻かれている最中だった野島君は、私に気付くと大きく眉を顰めた。

その態度に怯まず、私はその場から立ち退かなかった。



「今日は、私が持つから。」

お父さんの深緑色の傘を広げながら私が言うと、野島君はうっすらと笑みを浮かべてくれた。

彼が笑ってくれたことにようやくほっとした。

いつもの通り裏道からの下校だ。

高校の入学式の時に、不審者がよく出るから使ってはいけないと校長先生から注意のあった道だけど、野島君と一緒だと怖くもなかった。



「最近、泣かなくなったな。」

野島君が、ぽつりと言った。

私が自分の鼻を人差し指で指さすと、彼は首を縦に振った。

「私が泣きそうになる前に、野島君が守ってくれるから。」

私がそう言って笑うと、野島君は少しだけ私から目を逸らして、「そうか」と小さく呟いた。

野島君の家は、私の家と逆方向にあった。

彼を送ることになって初めて知った。

今まで当たり前のように送ってもらっていたけれど、急に申し訳ない気持ちになってしまった。



水たまりを踏んで足を濡らしながら歩く私に、野島君は「へたくそ」と言って笑った。

私が膨れたような顔をすると、更に笑って、それから傘を持ってくれた。

「腕、痛いでしょ。持っても大丈夫なの?」

「これくらい平気。

紫藤さんが水たまり踏むと、俺にまで水がかかるし。」

そう言いつつも、やはり腕が痛んだのか、彼は小さく顔を顰めた。

結局は傘の取り合いになり、私が力ずくで奪い返した。

つまらなさそうに口を尖らせている野島君を横目で見ながら、小声で「ごめんね」と謝った。

野島君は私を見下ろして、「何が?」と首を傾げた。

「私と一緒にいると、ろくなことないでしょ…。腕も、すごい怪我だし…。」

野島君は少しだけ考えてから、首を横へ振った。

「別に、そんなこと気にしてないよ。」

いつも以上にぶっきらぼうだったけれど、安心することができた。