終業式は無事に終わり、屋上メンバーは校門で別れた。

「良いお年を!」

そんな挨拶を交わしたことから、彼らと年内に会うことはないのだということを察した。

家へ変えると、リビングのカレンダーに書き込みをした。

クリスマスと元旦に丸を付ける私を母は嬉しそうに眺めていた。

「綾瀬が友達と外で遊び回るようになるなんて…ちょっと嬉しいよね、パパ」

母に話を振られた父は渋い顔をして新聞から目を離さない。

「間違っても変な奴らとは付き合うなよ」

そう低い声で言われ私はムッとした。

「綾瀬の友達はみんないい子よ」

母が代わりにそう言ってくれたものの、父は訂正をしなかった。




クリスマスの朝。

待ち合わせた駅に、梶君はすでに来ていた。

「寒いね」

第一声はそんなものだった。

私は笑いながら頷いて、差し出された手を握る。

電車到着のアナウンスが流れ、私たちはタイミング良く滑り込んできた電車に乗ることができた。

電車発車のアナウンスが流れた時だった。

フードを目深に被った男性が2人、転がり込むようにして車内に乗り込んできた。

乗客がギョッとする中、扉は閉まり電車が動き始めた。

息を切らしながら扉の前に座り込む2人を、梶君がギョッとしたように見下ろす。

俄かに信じがたいというように、彼は小声で「木山兄弟?」と声を掛ける。

もう片方の腕をしっかりと握っていた男性がパッと顔を上げる。

フードの影が顔に掛かっていたものの、その顔は間違いなく淳君だった。

もう片方は顔を上げずにジッとしているものの、体格からして木山君に間違いはなかった。

「丁度良かった、梶…420円貸して」

淳君に言われ、梶君は「は!?」と素っ頓狂な声をあげる。

「さっき切符買わずに改札抜けて来ちゃったんだよ…。てか俺ら財布持ってねーし…」

梶君は暫く呆気にとられていたものの、やがて財布を取り出して1000円札を彼らに渡した。

「いや、だから420円…」

淳君が怪訝そうな表情でそうお札を突っ返そうとすると、梶君が大きく溜息をついた。

「財布ないなら帰りも困るだろ」

梶君の言葉に淳君は今更気付いたのか「あ…」と言ってから慌てて俯いた。

お礼も言わずに彼は1000円を受け取り、ポケットにツッコンだ。

「お前ら、何処まで?」

梶君に聞かれ、淳君は横に座ったまま動かない木山君をそっと見やる。

「薫、何処まで行く?」

淳君に訊ねられた木山君は顔を上げないまま「知らない」と答えた。

「でも、おじさんたちが探してるといけないし…」

淳君の言葉に木山君は苛立ったようにもう1度「知らない」と答えた。




私と梶君は目的地の駅で降りた。

淳君と木山君は電車の隅に座り込んだままだったけれど、扉が閉まる直前、木山君が少しだけ此方を振り返った。

閉まる扉の隙間から見えた彼の顔に、私は一瞬息を呑んだ。

木山君は目の周りに大きな痣を作って、顔の半分がうす紫色に覆われていた。

「事情、聞かないんだ」

私が言うと、改札へ向かっていた梶君が振り返り、肩をすくめた。

「聞いたら教えてくれると思う?あの2人が」

確かにそうだけど…。

俯く私の手を梶君がギュッと掴んだ。