もしも願いが叶うなら


…好きなんだ、彩希。


もう彩希以外見れねぇんだよ!!


彩希以外の女を愛す事なんか……もう出来ねぇよ。



そんくらい俺が惚れてんのに……


お前は戻って来ないのか?


「…彩希の遺影は湊さんと笑いあってる時のがいいよ、おばさん」

「稜っ、てめぇ!!」

「…わかってるよ、稜ちゃん」

「おばさん…」

「稜だって彩希に戻って来てほしいと願っているんでしょう?」


……当たり前だ。

でも、俺の願いはことごとく崩れ去って……消えて無くなる。


最初から願わなければいい話なのに、

やっぱり人間は願ってしまうんだ。

……変な生き物だよな、俺達人間は。



「でも、彩希がこっちを戻ってくる気がないなら…意味ないでしょう?」

「…え?」

「稜ちゃんと彩希はね2人して大人っぽかったでしょ?」

「…まぁ」

「2人は無駄な事はしたくない子なの」

「意味…わかんね」

「小さいときから無い物ねだりなんかしないし、叶わない事は言わない」


……よくわかってるんだなぁ、おばさん。


「…でも、変わったわ」

「……え」

「願うようになってしまったの。でもそれが遅すぎたあまりに…叶わない時のダメージが大きかった」


…胸が痛かった。

初めて経験した痛みだった。



「小さいときに受けてないダメージだったから2人は…相当…」

「おばさん、やめましょうよ」

「…稜ちゃんと彩希は諦めたのよ」

「……」

「言っても叶わないなら言わなきゃいいと覚えたの。心の中に閉まっとけばいいと」

「…稜…」

「2人は誰よりも強いわ。…彩希が生きることを望まないなら稜ちゃんが“死ぬな”なんて願ったって叶わないものね」

「…彩希が望まないなら俺だって望みませんよ」


…彩希にはちゃんと幸せになってもらいたい。

たとえ俺じゃなくたって、

生きているこの世界じゃなくたって………


どこかで、

誰かと、

彩希が幸せなら俺はそれでいい。



初めから“叶わない”とわかってて願うのは、


ただ…心に傷を負うだけだ。


そんなのは勘弁してほしいからな。