「たくさん泣かせて、傷つけて、苦しめてきた」

「!!」


稜……。




「記憶が戻った時、俺には、彩希といる未来が見えなかった。」


“未来が見えない”

あたしはずっと見えてたよ。




「どう考えても、彩希は、俺じゃない誰かと幸せそうに笑いあってた」

「……」

「身を引こうって決めた。でもいざ決めたら結構辛くて。避けるのって避けられてる方も痛いけど、避ける方も痛いって気づいた」


あたしだって稜を避けていた。

好きだから……胸が痛かった。




「でも……彩希の涙を見るといてもたってもいられなくて……」

「う……ん…」

「やっぱり俺には、彩希しかいなくて」

「うん…」

「彩希といる未来が少し見えたような気がしたんだ」







―……泣かせないでよ。


あたしにだって稜しかいない。

ずっと稜しかいないんだよ?



「元に戻れない事ばかりやった」

「…っ」

「女を抱いた。お前を罵った。」

「…ぅっ」

「だけど」

「記憶がなくても俺は、彩希に、恋をした」

「―…!!」

「記憶がなくても、俺は彩希に、恋をする。記憶がなくなっても、心が覚えてる」

「うぅ……ふっ…」

「俺は、彩希にしか恋出来ない。彩希しか愛せないくらい俺は、彩希に、溺れてる」

「うぅわぁーん……!!」



ずっと待ってたんだよ?

あたしはずっとその言葉が欲しかったんだよ。

“記憶がなくなる場合は、嫌いな人か精神的な物”

……でも稜はあたしを忘れた。



稜はあたしが“嫌い”なんだと思って生きてきた。


だけどね、

“彩希にしか恋出来ない。”

“彩希しか愛せないくらい俺は、彩希に、溺れてる”


もうこの言葉で胸がいっぱいなくらい幸せ。